有名な怪談話として『四谷怪談』の「お岩さん」や、『トイレの花子さん』といった数多くの怪談や都市伝説が今でも伝わっている。
インターネットが誕生してからは匿名掲示板を中心に創作怪談や怖い体験などが多く語られ、それらを題材にした漫画や映画も多い。
そんな中で記憶に残っているものの、出典がいまいち判然としない話がいくつかあったので、今回はそれらを紹介しようと思う――というつもりで「出自不明の怖い話」というタイトルにしたが、この記事を書くにあたって調べたところ、ほとんど出自が判明した。今まで本腰を入れて調べようとしなかっただけで、案外調べようと思えば出てくるものですね。
ただ、依然として分からないものもあるので、判明済みのものとあわせて紹介しましょう。
その1:笑い女【判明済み】
ある地域のスーパーには、いつもケタケタと笑い声を上げる不気味な女が出没していた。
その女は、やや不気味ではあるものの誰かに直接的な迷惑をかけているわけでもないし、「お笑いさん」などとあだ名を付けられて放置されていた。
そんなある日、男が友人と買い出しに行ったところ、いつものようにケタケタと笑う女の姿を目撃する。
女の姿を見た友人は「ちょっかいかけようぜ」と言い、反対した男を振り切って笑い女に絡みにいったが、女は友人を無視して、虚空を見ながらケタケタと笑うだけ。
それに腹を立てた友人は女に肩をぶつけ、そのまま男とともに買い物を済ませ帰宅した。
それから友人は、スーパーではない場所であるにも関わらず“笑い女”がこちらを向いて立っているのが目に入るようになり、ケタケタという笑い声も四六時中聴こえるようになってすっかりノイローゼに。
会社にも来なくなり、音信不通となってしまった。
そんなある日、スーパーで男は再び笑い女の姿を見かける。
気が付くと彼女は真後ろに立っており、ケタケタと耳元で笑い出した。
そして、今までケタケタという笑い声だと思っていたそれは、至近距離で聴くと「見つけた見つけた」と繰り返し呟いているのだった。
大体このような話だった気がする。
そこで色々と検索をかけてみたところ、「笑い女」という題のまとめ記事が見つかった。
2008年に当時の2ちゃんねるに投稿された怖い話だ。
「ケタケタ」という笑い声ではなく「いひゃいひゃ」で、実は「居た居た」と言っていたというオチでしたね。どちらにせよ不気味で、日常で実際に遭遇しそうという部分も相まって怖い話だ。
言うまでもなくこれは創作だと思うけれど、実際に変わった人というのはいるもので、地元では「ギャル婆」と呼ばれていた、全身をどぎついギャルファッションに包んだ中年女性(男性という説もある)がいた。
彼女(彼)の正体は不明だが、単なる変人程度の扱いで、変質者として問題になっていた記憶はない。当時は今よりもゆるかったのもあるだろうけれど、少なくとも「松戸の妖怪」としてインターネットで知られる人物のように問題行動をしていたという話もない。
また、ネット上ではGoogleストリートビューに不気味な女が映り込んでいるとして福島県のスーパーが話題になったこともある。こちらは宗教関連だとかなんとか。
君子危うきに近寄らず、触らぬ神に祟りなしと昔から言うように、なんであれ無闇にちょっかいをかけないのが無難なところでしょう。
その2:電子ドラッグ【判明済み】
ある日、友人が「電子ドラッグ」なるものを見つけたと報告してきたのだという。
興味本位で一緒に聞いてみたところ、「ビー」という音が鳴り続けるだけで、特にこれといった効能もなく、友人とともに「ただの電子音じゃねえか」などと笑い飛ばした。
それから数日後、友人はなんとなくあの電子ドラッグを聴き続けているようで、次第に効果が現れてきたとハマっている様子で報告をしてくる。
そして友人の彼女から、家に遊びに行くと部屋の中で常にあの音が流れているのが不気味なので、友達として止めてほしいと相談を受けることになる。
友人の部屋に訪れると、部屋の中ではあの電子ドラッグが絶えることなく流れ続けており、さすがにヤバいと感じた男は音声ファイルを削除して、逃げるように部屋を出た。
すると友人が包丁を片手に、あの電子ドラッグのように口で「びー、びー」と呟きながら無表情で追いかけてきた。
これは「サイバードラッグの恐怖」という題でまとめられており、こちらも2014年に当時の2ちゃんねるで投稿された怖い話が出自だった。
読んでみると細かいところは結構違うけれど、大まかな内容としては同じで、最後は友人が精神病院で「ヴー、ヴー」と呟き続けているというオチがついている。
サイバードラッグなるものが本当に効果があるのかは知らないけれど、「催眠音声」と呼ばれるアダルト作品が一部から大きな支持を得ていることを考えるに、影響されてしまう人がいてもおかしくはなさそうだ。
実際「メリーさん」という催眠音声を聞くと、催眠を解除する音声が存在しない上に最後にはメリーさんと一体となる描写で音声が終了するため、多重人格を引き起こす可能性があるという都市伝説も存在する。
なんであれ、何事も過度に依存してしまうのは危険ですね。
その3:佇む男【判明済み】
小学生の頃、いつものように学校から帰宅していると、古びた一軒家の二階でぼんやりと窓の外を見ている男が目に留まった。
空を見ているわけでも道路を見ているわけでもなく、焦点の定まらない視線で虚空を見つめている。
どこか不気味には感じながらもさほど気にせずに通り過ぎたが、その翌日も同じように男は窓際に立ち尽くしていた。
数日後、男の姿はなくなっていた。
話に聞くところによると、彼は外を見ていたのではなく窓際で首を吊っていたのだという。
今まで見てきた彼の姿はぼんやりと外を眺めて思案していたのではなく、首をくくっていた姿だったのだ。
これについてはかなり有名な話らしく、『マンションの一室の窓から見つめる女性』という題でWikipediaが存在した。
読んでみると、確かにこの話にも見覚えがある。どうやら上記はこの話のバリエーションのひとつを目にして覚えていたもののようだ。
あるいは記憶の中で変質して「小学生が帰り道に不気味な男を見た」という話として覚えていたのかもしれない。
記憶の変質や改ざんを題材としたものとしては、最近では新進気鋭のホラー作家・梨の「つねにすでに」があるけれど、知らないうちにすり替わっているというのも恐ろしいですね。
記憶や口約束というのは不確かだからこそ、客観的なエビデンスというものが大切なわけです。ホラー作品だと書類だとか電子データで記録を残しても内容が変わっちゃうから、あまり意味はないけれど。
その4:窓ヒョコ女【判明済み】
夜中の就寝前などふとした瞬間に窓に目を向けると、笑顔でひょこひょこと顔を出したり引っ込めたりする女の霊が現れるという。
ひょっこりはんというお笑い芸人がいたり、擬音的にもあまり怖い雰囲気ではないが、実際に遭遇したら心臓が止まるであろう短い話。
怖い話というか妖怪の紹介だが、こちらについては調べたところすぐに多くの情報が見つかった。
2019年に5ちゃんねるにて建てられたスレッドが初出で「窓ヒョコ女」として知られ、八王子で多くの目撃例があるという。笑顔ではなく無表情でひょこひょこと顔を出すようだ。余計に気味の悪い話である。
怪異ではなく実在する人間だという説もあり、そうであるとしたらヘタな怪異より恐ろしい。
ただ正体がなんであれ、何階であったとしても戸締りはしっかりしておこうという話ですね。
その5:かごめかごめ
深夜に外から、子どもたちが遊ぶ声が聞こえてくる。
「かごめかごめ」と楽しげに聞こえてくる声を気に留めて、決して外を覗いてはいけない。
「うしろのしょうめんだーれ」と歌詞が終わると、子どもたちは一斉にこちらを向くのだ。
意味不明な歌詞から、口減らしを歌ったという説や徳川埋蔵金の在り方を示した歌だという説など、様々な都市伝説が囁かれる「かごめ歌」。
今どき真昼間の公園や小学校であってもかごめかごめをして遊ぶ子どもはいないだろうし、おそらく昭和前後に語られた怖い話だと予想している。
上記の話については特にヒットせず出自は不明だが、この歌自体どこか不気味ではあるし、そういったところからこのような話が生まれたのかもしれない。
どこかで見たとするならばやはりインターネット上か、風土や風俗をまとめた民俗学の書籍、はたまた胡散臭い怪談が多く書かれたコンビニ本か。
その6:彼女の奇行
ある日男は、酔った勢いで女の子と一晩だけ関係を持ってしまう。
男には同棲している彼女がおり、後ろめたさや不安感のようなものを薄らと抱えていたようだ。
それから数日が経ち、寝苦しさから目が覚めると人影が自分の真横に座っているのを感じる。
彼女も目が覚めたのだろうかと顔の方に目を向けると、目を大きく見開いた彼女が視界に入った。
そのあまりに異様な雰囲気に悪い夢でも見たのだろうと無理やり目を閉じて眠ったものの、数日おきに深夜に目を覚ますと必ず隣で彼女が、その大きな瞳を見開いて自分を凝視している。
もしかすると浮気がバレて怒っているのかもしれない。
そう思い、彼女にそれとなく探りを入れるも、全く心当たりがない様子で受け答えをされる。
その晩、再び目が覚めると肌に吐息を感じた。男は目を開くまでもなく、いつもよりも至近距離で彼女がじっと、あの大きな目で見つめていることを悟った。
翌日、浮気したことを正直に話すと彼女は激怒し、二人は同棲を解消、別れることになった。
結局あれはなんだったのか。彼女に何かが乗り移っていたのか、単なる夢遊病なのかは今となっては分からないが、男は目の大きな女の子に苦手意識を持つようになってしまったという。
これも調べてみたが、それらしい話は特にヒットしなかった。もしかすると酒の席なんかで聞かされた話かもしれない。
ただの創作怪談ではないかと言ってしまえばそれまでだけど、実際にあったことと仮定するなら、語り部が浮気をしてしまったことで不安感を抱いているという描写があることから、悪夢を見てそれを現実と勘違いしたのではなかろうか。明晰夢的なね。
概要としてはアトラスのアクションパズルゲーム『キャサリン』にも似ているかもしれない。あちらも酒の勢いで関係を持ってしまうし、冷めきった関係の恋人に呪われた結果、”悪夢”に突き落とされてしまうのだ。悪夢から脱出しないと変死体になって発見されるし、ボスステージでは恋人や赤子をモチーフとしたような怪物が捕まえようと迫ってくる。もちろん捕まればゲームオーバー(LOVE IS OVER)だ。
なにはともあれ、お互いフリーで成人しているなら好きに遊ぶのも結構だろうが、恋人なり配偶者がいる状態での不貞行為はすべきではないということですね。
以上、パッと思いついた「出自不明の怖い話」でした。
もしまた機会があれば、他の怖い話だとかオカルト関係の話をまとめようと思う。